鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】初診時の説明は、あとになって役立つことがある。

AVIM(無症候性脳室拡大)という概念がある。

 

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画像上は非常に疑わしくても、その時点で症状に乏しければ様子観察でもよいと思う。

 

ただし、「将来的に水頭症が顕在化することは十分にあり得る」ということを強調しておけば、いざという時に思い出してくれる。

 

いざということにならなければ、それに越したことはない。

 

 

80代後半の女性 水頭症症状の顕在化

 

初診時

 

もともと独居の方。現在〇〇病院に入院中。今日は娘さんと二人で来院。

(既往歴)
40台で子宮筋腫にてOP 高血圧 不眠
(現病歴)


飲食店で気を失い転倒、救急搬送先で洞不全症候群を指摘されペースメーカー植込。その後〇〇病院に転院して近日退院し独居生活に戻る予定である。

 

数年前から物忘れを娘さんは感じていた。〇〇病院入院中に他患者と諍いをおこしたりなどで認知症の可能性を心配し、来院された。

 

(診察所見)
HDS-R:24
遅延再生:2
立方体模写:OK
時計描画:OK
IADL:7、
改訂クリクトン尺度:5
Zarit:10
GDS:1
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
迷子:なし
レビースコア:ー
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:ー
FTLDセット:ー
頭部CT所見:complete DESH
介護保険:要支援1 退院後にサービス開始予定
胃切除:なし
歩行障害:軽度すり足
排尿障害:娘さん曰く頻尿
易怒性:なし
傾眠:なし

(診断)
ATD:△
DLB:
FTLD:
その他:NPH

(考察)

 

ADLを大きく阻害するほどではないようだが、軽度のすり足と頻尿傾向、そしてcomplete DESH(水頭症を強く疑う画像所見)から、NPHの可能性は考える。もしくはAVIM。

 

元々AVIMで、意識消失転倒により外傷性くも膜下出血を来たし、水頭症症状増悪を来した(続発性水頭症)という可能性もあるかな。

〇〇病院で行ったHDSRは14/30だったようだが、遅延再生質問を替えて行った当院検査では24/30。認知の大きな変動と捉える必要は?ただし、レビー感は感じられない。遅延再生2/6はやや注意かな。

 

いったん様子観察。今後すり足や頻尿の悪化を来すことがあればタップテストを検討した方がよいと、娘さんに伝えた。

 

 

約4ヶ月後

 

(娘さんよりTEL)


現在、独居生活に戻っているが、夜中に娘さんに「腰が痛いから救急車を呼んで」等の電話が頻繁にくるようになった。トイレも以前より目立って近くなっている。転倒もある。タップテストの話をもう一度聞きたい、とのこと(受付〇〇記載)

 

その後、ひとまず〇〇病院にリハビリ目的で入院となった。入院中に当院を受診され、以下の紹介状を△△病院宛てに作成。

 

〇〇様のご相談です。

 

5ヶ月前の初診時HDSR24/30で遅延再生は2/6。透視立方体模写と時計描画テストは何れも可。保続や取り繕いはなくATD要素はさほど感じられませんでした。頭部CTでDESHを認め、軽度のすり足と娘さん曰くの頻尿を認めるとのことでした。

 

AVIM、MCI両方で考え経過観察としましたが、先日転倒を機に一気に活気低下とすり足の悪化、失禁などを認めるようになったとのことで、本日来院されました。

 

HDSRは17/30と5ヶ月前より悪化。遅延再生は3/6でした。頭部CTは前回と比較して著変はありませんでしたが、明らかにNPH症状増悪と考えられました。

 

タップテストをお願いいたしたく、ご相談申し上げる次第です。タップ後は2週間ほど空けて当院受診を促して頂けましたら幸甚です。

 

お忙しい中恐れ入りますが、どうぞよろしくお願い申し上げます。

 

 

タップテストの結果は、

 

  • 3m往復テスト:19.9秒→29秒
  • MMSE:16/30→15/30

 

と、髄液排除で目立って改善という訳にはいかなかったようだ*1。タップテスト入院後は、そのまま〇〇病院へ転院となり、リハビリ継続となった。

 

約1ヶ月後

 

〇〇病院でのリハビリの結果、再度独歩可能となった。退院前に評価して欲しいとのことで娘さんと共に来院。

 

前回受診時は車椅子。そして本日はフラツキはあるものの杖歩行可能。リハビリの成果だろうが、髄液排除でリハビリに弾みが付いた可能性も考えられる。

 

そのことをお二人に伝え、「積極的にLPシャント手術を考えて良いと思いますよ」と促したところ了承されたので、△△病院に手術を依頼した。

 

約1ヶ月後

 

△△病院からの返書を如何に記載。

 

〇月〇日に、腰椎腹腔短絡術(Lpシャント)を行いました。術後経過は落ち着いており、歩行訓練、基本動作訓練、高次脳機能訓練など当院でのリハビリを開始し、入院時は不安定な杖歩行でしたが、現在独歩可能となっています。

術前と術後評価は以下の通りで、いずれも良好な改善を得ています。

 

  • 3m往復テスト:19.9秒→14.5秒
  • MMSE:16/30→20/30
  • FIM:90/126→111/126

 

 

(引用終了)

 

*1:このようなことは、多く経験する。髄液排除直後で効果が実感出来るケースもあれば、穿刺時の疼痛の影響などで評価が困難なこともある。水頭症であれば必ずタップテストで陽性となるわけではないし、LPシャントを行って初めて効果が実感出来るケースすら、しばしば存在する。