鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】初診から2年経過したアルツハイマー型認知症の方。

 一般的な認知症外来における抗認知症薬の処方基準とは、どのようなものであろうか?

 

他院から当院に引っ越してくる患者さん家族の話から推測するに、「認知機能テストが基準以下(HDS-Rなら21点未満)・VSRAD*1で関心領域の有意な脳萎縮」といったことを基準に処方されていることが多いように感じる。

 

今回紹介するTMさんは、初診から2年が経過した方である。

海馬は明らかに萎縮しHDS-Rも18/30と、一般的な認知症外来であれば恐らく初診時で抗認知症薬が処方されていたであろうTMさんなのだが、当院では抗認知症薬は未だに使用していない。

 

にもかかわらず、2年後の認知機能テストの点数は初診時よりも上がっており、悪化はまずなく、自覚的にも他覚的にも「改善」している。使っているのは、認知症サプリメントのフェルガードだけである。

 

自分が初診時で抗認知症薬を処方しなかったのは、認知症の進行抑制を第一義としていないという理由以外に、

 

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改訂クリクトン尺度が18/56で、短縮版Zaritは2/32と、家族負担度が低かったからである。

 

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初診時に家族負担度を把握することは、抗認知症薬の適正処方に繋がると感じている。

 

中核症状の改善率がさほど高いわけでもなく、場合によっては周辺症状の増悪に繋がるのが抗認知症薬だという認識を、医療関係者や患者、患者家族が共有出来る日が待ち遠しい。

 

80代女性 アルツハイマー型認知症

 

初診時


(既往歴)

右人工股関節置換術


(現病歴)

2年ほど前より物忘れが始まった。同じ話の繰り返しや探し物が増えている。以前より活気もなくなってきた。


(診察所見)
HDS-R:18
遅延再生:1
立方体模写:不可
時計描画:不可
IADL:4
改訂クリクトン尺度:18
Zarit:2
GDS:2
保続:ありあり
取り繕い:あり
病識:なし
迷子:あり
レビースコア:ー
rigid:なし
幻視:なし
ピックスコア:ー
FTLDセット:4/4
頭部CT所見:海馬萎縮 DESH+
介護保険:要介護1
胃切除:なし
歩行障害:人工股関節置換術後
排尿障害:なし
易怒性:なし
傾眠:

(診断)
ATD:◎
DLB:
FTLD:
その他:

(考察)

 

典型的ATDだが家族負担は極端に軽く、いわゆる元気ボケタイプかな。時折笑顔は出るが、受診に不服なのかふて腐れた印象ではある。


フェルガード100Mで介入開始。3ヶ月後に。

 

5ヶ月後

 

フェルガードフォロー中。

 

  • 初回HDSR18 遅延再生1
  • 今回HDSR22 遅延再生2

 

フェルガードを2ヶ月続けると、目に見えて活気が上がったが、その後1ヶ月休むと活気が下がったとのこと。

 

是非続けましょう。3ヶ月後で再診。

 

3ヶ月後

 

  • HDSR21
  • 遅延再生3


透視立方体模写と時計描画テストは不可だが、前回よりは上手になっている?

夕にフェルガード100M。飲んでいるときの顔は、明らかにしっかりしていると娘さん。


炭水化物を少なめに、タンパク質を多めに。かかりつけで下肢静脈瘤などの治療中。

「次は先生みたいに痩せてくるよー」と笑いながら話す。

 

遅延再生は複数パターンを準備しておく。

 

初診から約1年後

 

  • HDSR17
  • 遅延再生2
  • 透視立方体模写と時計描画テストは不可

 

フェルガードはサボリが多いかな。引き締めて。
左膝関節の手術を勧められているが、以前右に人工骨頭を入れた際に感染を繰り返して大変だったとのこと。

 

5ヶ月後

 

  • HDS-R:20
  • 遅延再生:3
  • 立方体模写:前回より良い
  • 時計描画:前回より良い

 

足の手術の入院中は、フェルガードを飲めなかった。退院後に再開して明らかに改善。これは自覚的他覚的だと。当方の顔は覚えていた。頭部CTは変化なし。

 

視空間認知が以前より良くなっている。次回はまた連絡を下さい。

 

初診から約2年後

 

  • HDS-R:25
  • 遅延再生:3
  • 透視立方体模写と時計描画テストは不可

 

HDS-Rは初診時より7点上昇。視空間認知は、初診時に戻ったような印象。

 

昨年は帯状疱疹で入院など忙しく中々来院出来なかったようだ。入院中はフェルガードが飲めずにボーッとしていたが、退院後に再開すると活気が明らかに上がってくると娘さん。

 

診察室ではみな笑顔。良い経過である。

 

(引用終了)

 

アルツハイマー型認知症患者の表情変化

透視立方体模写と時計描画テストの変化

視空間認知は、初診から1年2ヶ月後に最も改善を認めた。

 

*1:MRIを利用した、脳萎縮の解析ソフト