鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

【症例報告】夫を見送った後、静かに世を去った女性。

 

今回ご紹介するNMさんは、高度認知症だった90歳の女性。夫(軽度認知障害)と共に高齢者住宅に入居していた。

 

3ヶ月以上も不穏不眠で奇声を上げ、他の入居者から苦情が出るほどであった。 

 

初診時は意思疎通が全く取れず評価も困難であったが、施設スタッフと細かく連絡を取り合いながら陽性症状の緩和に努め、介入から2ヶ月ほどで落ち着きを得ることが出来た。

 

その後しばらくして夫が先に逝き、それを追いかけるようにNMさんも世を去った。

 

90歳女性 高度認知症(病型診断困難)

 

初診時

 

話しかけるも返事はなく疎通は困難。警戒しているのか威嚇するような行動をとるため、採血は断念。頭部CTはなんとか施行。

 

ここ3ヶ月ほど〇〇内科がフォローしているが改善はないとのこと。


現時点でのかかりつけ引っ越しは困難と考え、以下の様な情報提供書を送るに留める。

 

貴院かかりつけの〇〇様に関する情報提供です。

 

スタッフに伴われて本日当院を受診されました。疎通は困難で神経心理学検査は不可能でした。呻吟が多く不穏で、施設側も対応に相当苦慮されているようでした。

 

頭部CTはわずかに左側有意、全体的に著明な脳萎縮及びビンスワンガー変化、また両側放線冠で陳旧性脳梗塞痕を認めました。施設側は夜間の落ち着きを希望されていましたので、

 

  • グラマリール25mg 朝食後
  • クエチアピンアメル25mg 夕食後
  • 抑肝散2.5g+ロゼレム8mg 眠前

 

このような処方をご提案いたします。降圧薬やPPIを含めた胃薬、抗認知症薬、ビスフォスフォネートなど内服薬が非常に多い状況ですが、ご年齢や現状をみる限り、これらはほぼ不要と考えました。如何でしょうか?

 

ご対応頂けましたら幸甚です。
以上ご報告申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

 

 

5日後

 

かかりつけ医では対応困難とのことで、当院からの処方を施設側が希望された。

 

夜中なかなか寝ない。夕食後6時から8時の間で就寝し夜中起きている。


ロゼレム、抑肝散、クエチアピン12.5mgを就寝前に服用するよう指示。

 

1週間後

 

全く寝ずに、夜中騒ぎ続けると。一回はクエチアピンを少し時間をずらして25mgで内服してもらうも、それでも無理だった。

 

抑肝散は終了し、代わりにベンザリン10mg。ロゼレムと一緒に。
クエチアピン25mgは夕方に。それでもダメならクエチアピンは37.5mgに増量かな。

 

2週間後

 

今度は過鎮静が目立つようだとスタッフから。

 

クエチアピンを25mg→12.5mgに減量。ベンザリンは5mg~10mgで施設調整を。
超高齢なのでクエチアピンは早めに撤退したいが。

 

2週間後

 

ベンザリンは5mgでも10mgでも効きすぎる印象だと。しかし、抜くとずっと寝ない。

 

スタッフへの暴力も目立つ。診察中もスタッフに手を出し続ける。相変わらず疎通は困難。転倒したとのことで頭部CT施行。新鮮な所見はないが、今後のCSDH(慢性硬膜下血腫)の可能性については説明。

 

クエチアピンからコントミンに変更。12.5mgx4を処方し、最大50mg内で調整を任せる。


ベンザリンは2.5mgに減量して続ける。

 

帰宅後、 施設看護師さんより、夜開始予定のコントミンを昼服用してよいか問い合わせあり。 受診後施設に帰ってからずっと叫んでいる(電話口で看護師さんの声が聞き取れなくなるくらい声がする)暴力行為もあるとの事。院長に確認し、昼にコントミン2錠服用していただき、落ち着いたら夜は1錠、変わらなければ夜も2錠服用していただくようお伝え(受付〇〇記載)

 

介入から2ヶ月後

 

クエチアピンより明らかにコントミンはあっているようだ。過鎮静にはならずに済んでいる。大分落ち着いたようだ。

 

2週間後

 

日中傾眠になりすぎることなく、食欲も笑顔もしっかりある。
時には眠剤無しで眠れる日もある。眠れないときには翌日眠る。

 

調整はひとまず終了かな。処方継続。

 

4週間後

 

最近はロゼレムのみで眠れるようだ。今回はベンザリンは省く。


また、スタッフ観察では朝のコントミン12.5mgは1Tでもよいかもとのこと。今回は1.5T処方して適宜スタッフ調整に任せる。

 

4週間後

 

とても落ち着いているようだ。

ベンザリン不要。コントミンも0.5T減量。ロゼレムなしで眠れる時もある。

 

2週間後

 

とても調子が良いようだ。コントミンは減量可能との現場判断。
朝0.5、夕2に減らす。ベンザリンは不要。ロゼレムは残す。

 

積極的にコントミン減量を図っていく。

 

2ヶ月後

 

著変無く経過中。

コントミン減量は、引き続きスタッフ観察の元で。今回は維持。

 

2ヶ月後

 

好調を維持。

現状維持を施設側は希望。

 

1ヶ月後

 

ご主人が急死。肺炎からの心不全だったようで、施設で看取りになったとのこと。

 

NMさんは臨終の場には立ち会えた。ご主人と認識出来ていたかは分からないが、人が死ぬということは理解出来ていたようだ。その後の様子は安定しているとのこと。

 

1ヶ月後

 

ご主人が亡くなられてからも安定していたが、ある晩、特に前触れなく静かに息を引き取られたと、施設スタッフから報告があった。

 

(引用終了)

 


Yolande's Funeral flickr photo by tomxcoady shared under a Creative Commons (BY) license