鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

「認知症とパーキンソン症状を主症状とする新たな神経変性疾患を発見」というニュース。

 新たな変性疾患が見つかったらしい。

 

医療NEWSから。

 

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脳内に蓄積する異常タンパク質

 

北海道大学は1月17日、認知症とパーキンソン症状を主な症状とする新しい神経変性疾患を発見し、その発症に関与する遺伝子を同定したと発表した。この研究は、同大大学院医学研究院の矢部一郎准教授らの研究グループによるもの。研究成果は、「Scientific Reports」誌に掲載された。

(中略)

矢部准教授ら研究グループは、家族歴のある認知症とパーキンソン症状を主な症状とする神経変性疾患を診療していた。臨床症状からパーキンソン症候群の疑いがあると診断したが、診療した患者のうち亡くなった1名の脳を神経病理学的に検討したところ、海馬、淡蒼球、視床下核、黒質などと呼ばれる脳の部位を中心に神経変性が認められたという。この患者は、同部に神経原線維性変化が顕著だったが、アルツハイマー型認知症で認められるような老人斑は認められず、3リピートと4リピートのタウタンパク質が蓄積していた。

この所見は既知のパーキンソン症候群や認知症とは明らかに異なる知見であり、タウタンパク質が蓄積する新しい疾患(タウオパチー)と考えられた。(上記リンクより引用)

 

 

認知症とパーキンソン症状を主な症状とする疾患で有名なのはレビー小体型認知症(DLB)だが、DLB患者の脳内に蓄積するのはαシヌクレインというタンパクである。

 

神経変性疾患とは、脳内に何らかの異常タンパクを含む構造物が蓄積する病気である。以下に主な神経変性疾患の一覧を示す。()内が異常タンパクで、Rはrepeatの略。

 

  • アルツハイマー型認知症・・・老人斑(Aβ42)  NFT(3Rタウ、4Rタウ)
  • レビー小体型認知症・・・レビー小体(αシヌクレイン)
  • 多系統萎縮症・・・グリア細胞質内封入体(αシヌクレイン)
  • ピック病・・・ピック球(3Rタウ)
  • 大脳皮質基底核変性症・・・タウ封入体(4Rタウ)
  • 進行性核上性麻痺・・・タウ封入体(4Rタウ)

 

タウが蓄積する病気は「タウオパチー」と総称される*1。なので、ピック病、大脳皮質基底核変性症(CBD)、進行性核上性麻痺(PSP)はタウオパチーである。

 

タウとは?

 

細胞骨格を構成し、細胞内の物質輸送を行う「微小管」という構造物がある。

 

タウとは、ニューロンやグリア細胞に発現しているタンパクで、微小管に結合してその安定化を調節していると言われている。

 

また、微小管以外にもさまざまなタンパクと結合し、脳の成熟や軸策輸送、シグナル伝達の調節など、脳神経系で起こるさまざまな現象に関わっていると考えられている。

 

タウにはisoform(機能は同じだが異なる構造)が6つあり、微小管結合部位が3箇所のものは3Rタウ、4箇所のものは4Rタウと呼ぶ。

 

疾患との関連では、3Rタウが主にたまる疾患、4Rタウが主にたまる疾患、そしてその両者がたまる疾患に分類されるが、3Rタウの代表疾患がピック病、4Rタウの代表疾患はCBDやPSP、そして、3Rタウと4Rタウ両者がたまる疾患としてアルツハイマー型認知症やダウン症、神経原線維変化型認知症がある。

 

FTDP-17と違うのか?

 

今回のニュースをみて、「FTDP-17と何が違うの?」と考えた。

 

FTDP-17あるいは17番染色体に連鎖する家族性前頭側頭型認知症パーキンソニズムとは65歳未満で発症することが多い遺伝性の神経変性疾患であり認知症、行動異常、性格変化、パーキンソン症候群を中心とする運動障害と広い臨床スペクトラムを有する疾患である。タウ遺伝子(microtubule-assositated protein tau、MAPT)に変異を有するFTDP-17(MAPT)とプログラニュリン遺伝子(progranulin、RPGN)遺伝子に変異を認めるFTDP-17(RPGN)が知られている。臨床像では両者を区別できないがFTDP-17(MAPT)はタウオパチーの代表疾患であり、FTDP-17(RPGN)はTDP-43 proteinopathyである。(Wikipediaより引用)

 

FTDP-17とは、frontotemporal dementia with parkinsonism linked to chromosome 17の略、つまり「17番染色体連鎖性のパーキンソン徴候を伴う前頭側頭型認知症」のことで、3Rタウと4Rタウの両方がたまる、常染色体優生遺伝の神経変性疾患である。

 

 

神経変性疾患は,脳や脊髄の特定の神経細胞群が徐々に死んでいく病気ですが,その病態はよくわかっていません。今回,研究グループが発見したのは,認知症とパーキンソン症状を主な症状とし,病理学的に海馬等の神経変性を伴い,3リピートと4リピートのタウ蛋白質の蓄積を伴う新しい神経変性疾患です。


この神経変性疾患に対し遺伝子解析を実施したところ,神経終末アクティブゾーンで情報伝達を調整する Bassoon 蛋白質を作り出す Bassoon (BSN)遺伝子の変化を見出しました。さらに,今までパーキンソン症候群(進行性核上性麻痺)の疑いがあると臨床診断されていた患者を対象に遺伝子解析を実施したところ,その約 10%に BSN 遺伝子の変化がありました。BSN 遺伝子に遺伝子変化を導入した細胞で検討すると,この遺伝子変化により不溶性のタウ蛋白質が蓄積する可能性が認められました。(北大プレスリリースより引用。下線部は筆者によるもの)

 

 

今回報告された新たな変性疾患は、認知症とパーキンソン症状は主症状らしいが、それはFTDP-17も同じ。3Rタウと4Rタウが蓄積しているというのも同じ。 

 

プレスリリース内にFTDP-17に関する言及はなかったものの、何らかの関連があるように思えた。

 

どうなんだろう?

*1:高齢者タウオパチーには様々な疾患が含まれるが、基本は脳内のタウ蛋白の沈着がアミロイ ド β 蛋白より優位になる疾患群を指す。