鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

診断に役立てるために、検査はどこまで行うべきなのか?(後編)

前回(12/7の記事)に続き、検査はどこまでするべきか?という話。

 

今回は、自分の昔話が絡みます。 

           認知症の検査
flickr photo shared by Seattle Municipal Archives 

お前、検査出し過ぎだぞ(怒)

 

研修医の頃、上司によく怒られたものでした。

 

大学病院のカンファレンスでは、

 

  • Aという検査の結果から、Bという疾患の可能性を考えます
  • Cという検査の結果から、Dという疾患の可能性は否定的だと思います

 

このような形式でプレゼンテーションを行っていた。

理想は、最小限の検査で正確に診断し、正確な病名に辿り着くこと。そして、最も効果的な治療方法を選択することである。

 

しかし、知識も経験もない研修医の自分は、むやみやたらに検査をオーダーしては怒られ、怒られながら

 

  「ああ、こういう場合にはこの検査は不要なんだな」

 

ということを学んでいった。

 

その後に中規模の民間病院で働いたのだが、ここでいわゆる”コスト意識”を徹底的に学んだ。

 

看護師「先生!〇〇までにベッドを空けておかないと、〇〇万円の損害になるからね!」

自分「ハ、ハイ!」

看護師「先生!検査項目は〇〇までに抑えてね。カットされたら〇〇円の損害になるからね!」

自分「ハ、ハイ!」

看護師「先生!薬の種類は〇〇種類に抑えてね。加算が取れなくなるから!」

自分「ヒャ、ヒャイ!」

 

このように、古参のベテラン看護師さん達に揉まれながら「取れる加算はしっかりと算定を。そして、無駄は極力省く!」ということを学んだ。

 

先生、この検査はやっておいた方がいいんじゃないの?

 

コスト意識を学んだ自分は、その後徹底的に無駄を省くようになった。しかし、そこには落とし穴もあった。

 

ある患者さんでの経験

 

ある日、自分が救急外来で診た患者さん。

突然の頭痛の訴えで、ご自分で歩いて来院された。

片頭痛持ちだが、いつもの頭痛と違う気がするとのことだったので、当然「くも膜下出血の可能性」を疑い頭部CTを行った。

 

結果、明らかなくも膜下出血は認めなかった。頭痛は自制内で吐き気はなく、ご本人は「じゃあ鎮痛剤で様子をみてみます」と仰って帰宅された。

 

そして、この患者さんが1週間後に突然の意識障害で救急搬送されてきた。

 

頭部CTを行ったところ、明瞭な「くも膜下出血」を認めた。続けて行った造影3D-CTAで脳動脈瘤を認めたため、開頭クリッピング手術を行うこととなった。幸い一命は取り留めたものの、リハビリ転院が必要となった。

 

初診時に必要だった検査は?

 

後日、上司と一緒に初診時の頭部CTを検証した。

左内頚動脈-後交通動脈分岐部が、単純CT(軸位断)でほんのわずかだが隆起しているように見えた。これが、今回の出血源となった動脈瘤であった。

 

  「確かに救急外来で行ったCTでくも膜下出血は認めないし、分岐部隆起も有意なものとは言えない。自分が先生の立場でも見落とすかもしれない。でも、「今までと違う頭痛」というのはやはりキーワードだと思う。脳外科医ならそこで、積極的に造影3D-CTAやMRAで血管評価を行ってもいいと思うんだけどね。勿論、腰椎穿刺もね。」

 

このように諭された。

 

救急外来では、時に救急車を同時に複数台捌きつつ、また歩いて来院される患者さんへの対応も必要である。

 

当然、優先順位の付け方が重要となるわけだが、

 

  「今までにない頭痛とのことだけど、CTでくも膜下出血を起こしてはいないし、歩いて来られるぐらいだからまあ大丈夫だろう。他の患者もどんどん捌かなければ・・・」

 

こうして自分の中でこの方の優先順位が下げられた結果が、「1週間後にくも膜下出血を起こしたご本人との再会」であった。

 

未熟であった、と言えばそれまでの話ではある。

 

失敗しなければ学べない

 

過剰検査、過少検査、いずれもよくない

 

検査の出し方は、間違い(過剰、過少両方)から学ぶことが多い。最初から全ての検査の適応を正確に把握して、無駄なく検査をオーダーできる医師などいないはず(いたらスイマセン・・・)。

 

自分にとって幸いだったのは、初期研修の大学時代にお世話になった上司が、「過剰検査」に対して敏感な先生だったことだと思っている。通常、大学病院は先端医療を提供する研究機関ということもあり、「データ取りのための過剰検査はしょうがないよね」という空気があったので。

 

そして、その後お世話になった看護師さん達や先生達が、それぞれコスト管理の重要性や「過少検査の弊害」について教えてくれたことで、バランス感覚をある程度身につけることが出来るようになったと思っている。

 

「見逃しがないように!」を最優先させた場合、無理矢理病名をつけてあらゆる検査を行うことは不可能ではない(ただし、査定で削られる可能性は大いにある)が、その時に患者さんが払う経済的また身体的コスト、及び社会が支払う経済的コスト(保険診療なので)は莫大なものとなる。

 

逆に、「画像検査なぞ不要!」とした場合、脳腫瘍の見逃しやいわゆる「treatable dementia(慢性硬膜下血腫や特発性正常圧水頭症)」の見落としが恐い。認知症診断においては、画像評価は一度はしっかりと行うべきである。ただし、それはMRI、CT、どちらでもいいと思う。

 

www.ninchi-shou.com

 

そしてその際には、3方向評価をオススメする。

 

www.ninchi-shou.com

 

その検査の結果次第で、治療方針が大幅に変わるかどうかが大事

 

突然の今まで経験したことのない頭痛の場合、動脈瘤や血管解離があるのかどうかでその後の治療方針は劇的に変わる。動脈瘤など見つかれば、そのまま手術治療の流れとなるし、見つからなければ一般的には保存的薬物療法の対象となる。

 

なので、突然の頭痛に対して頭部CT撮影後に追加で血管評価を行うことは、治療方針がその結果で変わりうるという意味で「過剰検査」ではないと言って良い。

 

それなりの経験を積んできた現在の自分は「過剰な検査は控える」という基本スタンスである。ただし、是非とも必要な検査を躊躇うことはしないように気をつけてはいるつもりである。

 

その上で、今後物忘れ外来を受診しようと思っている方(ご家族含む)へのアドバイスを。

 

  1. 事前に、どのような方法で診断するのか確認を。施設により評価方法は様々である。
  2. 基本検査に、SPECTやDAT-scanが入っているか確認を。

 

基本検査(ルーチン検査)にSPECTやDAT-scanが入っている場合、

 

  「その検査結果で、大きく治療方針(選択する薬剤を含め)は変わりますか?」

 

と尋ねてみることをお勧めする。

 

変わりうるのであれば受ける意義はある。「変わらない」という返事であれば、その時点で受ける意義は低いだろう。

 

www.ninchi-shou.com