鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

抗認知症薬のリスクとベネフィットに関する報告。

抗認知症薬は、本当に効くのか?


ケアネットでみつけた記事を紹介する。


リンクはこちら。ログインが必要なサイトので、見られない方は下記の原著論文のabstractをご参考に。


A Risk-Benefit Assessment of Dementia Medications: Systematic Review of the Evidence. - PubMed - NCBI



内容をかいつまんで記載する。

  • コリンエステラーゼ阻害薬(アリセプト、レミニール、リバスチグミン)によるベネフィット(恩恵)は少なく、時間の経過と共に効果は減弱する。
  • 用量依存的に有害事象が増加する
  • メマリー単剤療法は、リスクは少ないがベネフィットも少ない。
 
「用量依存的に有害事象が増加する」という記載は、自分の臨床感覚に一致する。
 

超高齢者には特に注意が必要

 
  • ①進行例、あるいは85歳以上の患者にベネフィットを示したエビデンスはなし。
  • ②コリン作動性による消化器系、神経系、心血管系副作用のリスクは2〜5倍に。副作用としては体重減少、衰弱、失神。
 
②に関しては、用量依存的問題と考えていいだろう。
 
①に関してだが、自験例では85歳以上の方でも、微調整で著明に改善する方はいる。しかし、「超高齢」という点で薬剤については相当慎重に考えるべきであることに異論はない。

また、エビデンスがないというのも当然かもしれない。そもそも、そのようにデザインした試験を行うことすら、超高齢者にとっては危険であろうから。
 

では、抗認知症薬は使わない方がいいのか?

 
最近は「抗精神病薬は基本的に使うな」という考えが主流のようだが、そのうえ「抗認知症薬も基本的に使うな」となれば、大変な目に遭うのは本人とご家族、そして介護スタッフである。
 

 

 

「抗認知症薬(そして抗精神病薬)=危険」という認識は間違いではないが、この認識を医療者と介護者、両方が持っておくことの方が重要である。100%安全な治療法や薬など、所詮存在しないのだから。


その上で、「じゃあ、どのように薬と上手く付き合うか」という話である。勿論、リスクとベネフィットの両方を説明しつつ。

現在、自分の外来におけるスタンスは、

  • MCIレベルであれば、運動及び栄養(特に糖質制限)の重要性について説明し、フェルガードとココナッツオイルについて情報を提供。3ヶ月おきの外来フォローをお勧めする。
  • 既に発症しているが、周辺症状はなくADLがほぼ自立しているケースでは、介護保険申請をまずお勧めする。抗認知症薬については、家族の希望があり、かつ本人も納得するなら処方。希望がなければ、フェルガードとココナッツオイルについて情報提供を行い、3ヶ月おきに外来フォロー。
  • 既に発症しており、かつ周辺症状(陽性症状)もあるケースでは、介護保険申請をお勧めすると同時に、周辺症状対策としての抗精神病薬(陽性症状に対する抑制系)を勧める。周辺症状がせん妄の場合にはシチコリン注射を使用。抗認知症薬(中核症状対策)の処方は、ケースバイケース。このレベルになってくると、ご本人が治療の内容や意義を理解できなくなっていることがあるので、ご家族の意向が強く反映されてくる。
 
このような感じである。
 

結論

 
自分がこの論文から読み取ったのは、
 
「抗認知症薬はベネフィットが少なくリスクが大きい」
 
ということよりも、

「抗認知症薬は、用量依存的に有害事象が増える恐れがあるので、添付文書の増量規定を守っていると逆に危ないのではないか?」

ということであった。

「少量で開始して効果があったら維持」という使い方の方が、薬を長く大事に使える。

添付文書通りに、短期間で規定用量まで増量していたら早晩頭打ちになるし、有害事象も増えて当然といえば当然である。