何から手を付けるべきか悩んだら
基本的には、ご家族の要望を聞きながら決めていけば良いと考えている。
- 食欲を取り戻して欲しい→短期間の少量ドグマチール+プロマックDの食欲セット
- 夜にしっかり眠って欲しい→翌朝持ち越しや転倒に充分気をつけながら眠剤処方
- いきなり怒ったり刃物を持ち出したりして恐い→量に注意して少量の向精神薬を検討
このような感じで。
これをせずに、
としてしまうと、痛い目に遭う確率は増すだろう。
今回経験した方は、複数の認知症疾患を合併していた。今後このようなケースを「マルチミックス」と便宜上呼ぶことにする。
84歳女性 マルチミックス
(記録より引用開始)
初診時
(既往歴)
高血圧 高脂血症 自律神経発作 GERD
(現病歴)
家族がグルタチオンに興味有りとのことで紹介。
VaD(脳血管性認知症)+DLB(レビー小体型認知症)の可能性を指摘されている。レミニール16mg、ネオドパストン300mg、抑肝散7.5g/day内服中。
(診察所見)
MMSE9/30
遅延再生:0
立方体模写:不可
時計描画:不可
クリクトン尺度:27
保続:なし
取り繕い:なし
病識:?
迷子:なし
レビースコア:3
rigid:両側であり
ピックスコア:FTLDセット2/4
頭部CT左右差:なし
介護保険:
胃切除:なし
歩行障害:あり 小刻み
頻尿:ありあり
易怒性:なし
(診断)
ATD:
DLB:△
FTLD:
MCI:
その他:VaD iNPH
頭部CTでビンスワンガー虚血巣内にLDA(低吸収域)が点在している。他院で抗血小板薬内服中。海馬萎縮は中等度。頭頂脳溝消失あり、正常圧水頭症の可能性もあるかな。
一晩で5~10回程の夜間頻尿で家族は困っている。眠前にウリトスを試す。
VaD>DLB,iNPHぐらいで考えておくか。抗パーキンソン薬増量は困難かな。いずれTAPテストも提案してみるかな。
シチコリン500mg+グルタチオン400mg施行。
現在グループホーム入所中。
1ヶ月後
頻尿はウリトスでやや軽減。また、シチコリン注射以降活気が上がって笑顔が増えていると。
処方維持。
初診より5ヶ月後
表情や歩行状態、活気、排泄面で著明な改善。
HDSR9.5
クリクトン尺度16
ニコニコ話しかけてくれる。内容はよくわからないが、機嫌は良い。
クリクトン尺度で27点→16点と介護負担度も軽減しているようだ。
現状維持で。シチコリンはもういらないだろう。
歩行や失禁で著明な改善を得ているので、TAPテストに関しては家族と相談して様子見とした。
(引用終了)
一旦改善したら現状維持
元々、抗認知症薬は既に処方されていた方。内服している薬剤による悪影響は感じられなかったので、ひとまずそれらの処方は継続。当方で行ったことは
- 頻尿対策でウリトス処方
- 活気上昇を狙って数回のシチコリン注射
この2つだけ。これで大分家族が楽になったので、現状維持とした。
ちなみに、頭部CTでは正常圧水頭症の存在が示唆されているので、TAPテスト(髄液排除試験)が陽性であれば、シャント手術で更に症状改善が得られるかもしれない。
しかし、認知症を持つ高齢者が手術入院した場合
などから不穏となり、シャント手術の効果がよく分からなくなってしまうことがある。特に、レビー小体型認知症を合併している方はせん妄を起こすリスクが高く、術前術後の評価が困難なこともしばしば。
この方にもTAPテストについて説明はしたが、ご家族のお返事が
先生、ここまで良くなってくれたから、とりあえずしばらくは様子を見たいです。
とのことだったので、「では当面現状維持で経過をみていきましょう」とお答えし、外来フォローを継続している。