鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

77歳男性、慢性硬膜下血腫の術後にピック病の症状が顕在化してきた一例。

慢性硬膜下血腫の影響で、ピック病の症状がマスクされていたのか?


慢性硬膜下血腫で手術→その後ピック病的症状が目立ってきた→ウインタミンで改善、という経過をたどった方をご紹介。

慢性硬膜下血腫術後でピック病が発覚
表情に変化有り

 

 

慢性硬膜下血腫術前画像
血腫による脳のシフトあり

 

慢性硬膜下血腫術後画像
血腫が取り除かれてみえてくる所見

 

HDSR26点 ピックスコア3.5点
長谷川式テスト26点 ピックスコア3.5点

 

77歳男性 ピック病疑い

初診時


(記録より引用開始)

(既往歴)

慢性硬膜下血腫術後

(現病歴)

3ヶ月前に慢性硬膜下血腫で手術。その後徐々に、易怒性の亢進を認めるようになった。毎朝4時過ぎに起き出してごそごそ。娘さんを罵倒する。

人が変わったみたいで怖い。確かに以前と表情が違う。くぐもったようなやや不気味な感じ。物忘れ症状あり、同じ事を何度も尋ねると。

(診察所見)

HDS-R:26
遅延再生:4
立方体模写:OK
時計描画:OK
クリクトン尺度:8
保続:なし
取り繕い:なし
病識:なし
迷子:なし
レビースコア:2
rigid:なし
ピックスコア:3.5
頭部CT左右差:わずかに左
介護保険:なし
胃切除:なし
歩行障害:なし
頻尿:あり
易怒性:ありあり

(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:△
MCI:
その他:

頻尿有り。ピック感ありと考える。CTでは、わずかに左側有意の萎縮が目立つか。


ウインタミン4mg-6mgで介入開始。落ち着いたらかかりつけにバトンタッチかな。

5週間後



目つきが非常に穏やかになった。
妻も、「怒りっぽさが殆ど目立たなくなりました」と喜んでいる。

HDS-Rは26/30と高い。易怒性を考慮して現時点では中核薬は使用せず。

かかりつけに、ウインタミン維持処方を依頼する。良かったですね。

(引用終了)

慢性硬膜下血腫+αの方は結構見かけます



例えば、以前ブログで紹介したこの方。

 

www.ninchi-shou.com

 

レビー小体型認知症の方は、小刻み歩行の影響、また幻視の影響などで、その他の認知症疾患と比べて転倒しやすい。正常圧水頭症の方も歩行が不安定なので、やはり転びやすい。

物忘れのある高齢者で「最近急に転びやすくなってきた」という訴えを聞いた場合、

  • 麻痺があるなら、脳梗塞か慢性硬膜下血腫を疑う
  • 麻痺が無ければ、正常圧水頭症やレビー小体型認知症を疑う

 

まずはこのようにザックリと考えてみたら良いと思う。

 

慢性硬膜下血腫や水頭症の場合、脳が圧迫されることで認知症症状が分からなくなっているケースがある

 

これはちょっと注意が必要。

 

正常圧水頭症で認知面が低下する場合、通常はボーッとして一見アパシー(無気力、感情鈍麻)のように見える方が多い。こういった方達は、シャント術後に活気の改善が期待できる。

 

しかし、失禁や歩行障害があり、かつ易怒性も高い正常圧水頭症の方であれば、シャント術後に更に易怒性が亢進したり、徘徊を始めたりすることがある。

 

これを予想するのに有効なのが、脳萎縮の左右差の有無である。

 

正常圧水頭症のDESH所見を呈していて、尚且つ脳萎縮に左右差のある怒りっぽい方であれば、まずはウインタミンで少し過鎮静気味に陽性症状を抑え、その後速やかにTAPテスト、シャント手術を行う。

 

シャント手術によって脳への髄液圧排が軽減され、その結果易怒性が増してきても、先にやや過鎮静気味に入れておいたウインタミンのおかげで、ちょうど良い塩梅に治まることが期待できる。

 

ウインタミンのさじ加減は重要だが、これはオススメの方法だと思う。

 

過鎮静が恐ければマイルドな量で始めても良いと思うが、その場合術後いきなり爆発的易怒に接して、慌てて増量することもあるので注意が必要。

 

尚、慢性硬膜下血腫の場合は通常片側が圧排されているので、圧排されている側の画像情報を読み取ることは困難である。

 

こういう場合、「もし認知症を既に患っていたとしたら、それはどのような症状だったのか?」ということを事前に聴取しておくことで、ある程度の病型診断は可能である。