鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

元々のキャラクターを拗らせたのか、それとも認知症になったのか?

その判断は時に難しい



①温厚だった人が別人のように怒りっぽくなった
②元々キツイ性格の人が、更にキツくなった

家族からすると、①だと「認知症ではないか?」と疑う。

②の場合には、「もう年だし、元々キツイ性格だったからこんなものかもな」と、しばらく様子をみていることが多い。

83歳のピック病疑いの方 要介護2

 

長谷川式は高得点で、立方体や時計描画も大丈夫

 

画像上は、ややピックの要素ありかな

 

83歳女性 ピック病疑い

 

初診時



(記録より引用開始)

(既往歴)

大腸癌で手術 喘息

(現病歴)

4年前にDLBの診断でアリセプトが始まり、その後5mgで維持されている。


現在有料老人ホーム入所中だが、他者との折り合いが悪く攻撃性が高い、物盗られ妄想が強く、帰宅願望も強いと。

入所継続困難を施設側から言われている。縁が薄かった遠方の息子さんに伴われて来院。本人はけろっとしている。ピック感あり。

(診察所見)

HDS-R:25
遅延再生:3
立方体模写:OK
時計描画:OK
クリクトン尺度:24
保続:なし
取り繕い:あり
病識:なし
迷子:なし
レビースコア:1.5
rigid:なし
ピックスコア:2.5
頭部CT左右差:なし
介護保険:要介護2
胃切除:なし
歩行障害:なし
頻尿:なし
易怒性:高い

(診断)
ATD:
DLB:
FTLD:△
MCI:
その他:

目は見開き気味で診察中は足を組んでいた。病識の無さは突出している。


頭部CTで萎縮の左右差はないが、Pick切痕的切れ込みと頭頂葉萎縮回避及び、前頭葉がやや沈み込むような萎縮を認める。

4年間で3点というマイルドなHDSR低下。総得点は高いが、Pickの方向で考えておく。

退所の危機。アリセプトを2.5mgに減量してウインタミンを4mg-6mgで一ヶ月間。

「私は看護師をしていましたので、自分に必要な薬は添付文書を読んで、自分でちゃんと理解できますから」

うーん・・・

数日後



お一人で来院。

「添付文書を読んだが、私にあてはまる症状はないので、この薬は飲みません」とハッキリ仰った・・・

ウインタミン中止。話は基本的に理屈が通っている。独居に戻りたい理由と、それについて起きうる問題点と解決方法まで説明出来る。

現時点での当方からの介入は、一旦終了。かかりつけに情報提供。

(引用終了)

アリセプトはOKでウインタミンはNGの理由はあるのだろうか?



残念だが、ある種予想通りとも言える結果。個人的な印象だが、ピックの方には薬を拒否するケースが多い

この方のピックスコアは2.5と4点未満で画像上も萎縮の左右差はなかったが、わずかにPick切痕と頭頂葉萎縮回避があるかな?という画像所見及び、診察時に受けたPick感を診断の頼りとした。

添付文書を読む方なので、当然アリセプトの適応症である「アルツハイマー型認知症」にも気づいている。そして、「私は認知症ではないけれども、念のために飲んでいるの」と説明する。この辺りは、アリセプトを出した担当医の説明の上手さもあるのかもしれない。

今回の場合、前もって「添付文書に書かれている病名がどうこうということではなく、落ち着いた気分で過ごして頂くための薬ですよ」とお伝えしていたのだが、ダメだった。もっと別な伝え方があったのかもしれない。

「今は受け入れが難しそうだな」と感じた場合には無理に初回処方はせず、数回通院してもらい関係性が構築出来た頃合いで処方を行うこともあるのだが、この方は退所の瀬戸際ということもあり、初回処方を行ったのだが、上記の結果に終わってしまった。

ただ、かなり理路整然と説明は出来る方ではあったので、環境を整えた上で独居に戻ってみたら、案外上手くやれるのかもしれない。工夫のしどころはあると思う。

処方のタイミング、受診のタイミングなど、色々と難しいものです。

尚この方は、自覚的、他覚的な薬の効果の実感がないまま4年間アリセプト5mgを継続していたのだが、その是非については次回論ずることにする。

 

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