介護だけで認知症をみていくことは困難である
認知症診療において、薬物治療と介護は重要な車の両輪である。
しかし、薬物治療を必要以上に警戒してしまい、その結果適切な治療介入が遅れてしまうケースがある。
今回紹介するのは、そのような方。
84歳男性 DLB+α
初診時
(記録より引用開始)
(既往歴)
悪性胸膜中皮腫
(現病歴)
ここ1年ほどで目立って落ちてきたと。これまで神経内科や精神科で抑鬱、適応障害などいろいろ言われてその都度薬剤介入があった。今は薬が怖いので何も使っていない。遠距離にいるお子さんたちの間を行ったり来たり。その都度、弱っていく感じと。
(診察所見)
HDS-R:施行不可
遅延再生:不可
立方体模写:まずまず
時計描画:不可
クリクトン尺度:?
保続:なし
取り繕い:なし
病識:?
迷子:なし
レビースコア:7
rigid:両側であり
ピックスコア:3
頭部CT左右差:あり
介護保険:要介護1
胃切除:なし
(診断)
ATD:
DLB:〇
FTLD:
MCI:
その他:
入室時からレビー感あり。視線は合わず辛そうな表情。介助で何とか歩いている。小刻み歩行。食べ物をかきこむ、眼球運動が上下で少し弱いことからPSPは念頭に置くが、CTでHuming birdサインは陰性。
レビーセット(イクセロンパッチ4.5mg)で介入開始。ニコリンも使用。グルタチオンも少し。食欲セット(ドグマチール+プロマックD)も。
ニコリン1000mg+グルタチオン400mgの静注直後で、目に光が出てきて自分で立ち上がり、「ありがとう!」としっかりした声で礼を述べた後に泣き出した。それをみていた娘さんも泣き出した。
初診より11日後
前回より活気アップ。歩行も出来ている。金曜日ぐらいまではかなり調子がよかったと娘さん。歩行メインよりは意識状態メインでみたいと。ニコリン継続。
食欲は上がってきた。次回でドグマチールは撤退予定。
初診より6週間後
有料老人ホームに入所。
2週間は少し落ち着かなかったが、やっと安定してきたと。
排便コントロールでマグミット処方。
掻痒感対策には、ひとまずワセリン。
笑顔が見える。調子は良いようだ。軽度rigidあり、次回はメネシット少量を検討。
(引用終了)
介護と薬、いずれも重要です
薬剤過敏性のために、過去において薬で痛い目に遭い、その結果薬を拒否するようになる方がいる。
ちなみに、このご家族はあまり多くは語られなかったが、かつて薬剤で難儀をされたことは薄々と察せられた。
ちなみに、ある時点では使えなかった薬でも、少し時間が経過して改めて少量でチャレンジしてみると、案外使えることはある。
DLBにおいて薬剤過敏性は重要な特徴ではあるが、それを踏まえた上で「一歩踏み込む」ことも、治療上時には必要である。
- CTで萎縮に左右差があり、ピックスコア3点なのでLPC化する可能性
- 頭頂脳溝消失はないが、やや脳溝の不均等拡大所見あり。水頭症症状が前面に出てくる可能性
この2点に注意して、今後経過をみていく。