鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

パーキンソン病と認知症の関係について。

DLBとPDDの違いは?

パーキンソン病の特徴的な姿勢
 
パーキンソン病と認知症についての話題。
 
 

東北大大学院医学系研究科の森悦朗教授(高次機能障害学)らの研究グループは、認知症を併発することの多いパーキンソン病の患者を3年にわたって追跡調査し、認知障害が現れる前に脳機能が低下していたことを発見した。認知症が発症する前に進行が予測できることから、適切な治療の開始につながるという。  研究グループは、認知症を発症していない患者53人を対象に、陽電子放射断層撮影装置(PET)を用いて脳内でのブドウ糖の代謝を検査。3年後に認知機能や運動機能がどのように変化したかを調べた。  PET検査で側頭葉、頭頂葉、後頭葉などの代謝が低下していた患者は3年後、認知機能や運動機能が著しく悪化していた。病気の初期の段階で大脳新皮質に何らかの異常が発生し、これが原因となって急速に症状が進んだ可能性がある。  パーキンソン病の症状は運動障害が主だが、認知症を発症するリスクも高く、8年間で患者の約8割が認知症を発症したとの報告もある。  森教授は「長い期間追跡したことで症状の変化がより詳細に分かった。脳の検査で症状の進行を予測できれば、発症を遅らせる薬剤の選択にも工夫ができる」と話す。 [パーキンソン病]脳の神経細胞が減ることで手足の震え、筋肉のこわばりなどの症状が出る厚生労働省指定の難病。50代後半~60代で多く発症し、10万人に100~150人の割合で患者がいるとされる。(河北新報より引用)

 

パーキンソン病で発症し、その後1年以上経過してから認知症を発症した場合には、PDD(Parkinson's Disease with Dementia)と呼び、DLB(レビー小体型認知症)と区別される。

 

異なる病気で対処も全く違ってくるという訳ではなく、使用する薬剤も大きくは変わらないが、DLBでは薬物過敏に注意して経過を診ていく必要がある。

 

パーキンソン病の方全てに初期段階でPETやSPECTを行うことは、現実的に困難である。今回の研究結果で大切なのは、「パーキンソン病が分かった時点で、既に脳の代謝低下が進んでいる場合があり、そのようなケースでは急速に運動障害や認知症進行が起きる確率が高い」ということだろう。

 

抗パーキンソン薬の問題

 

どうしても長期投与にならざるを得ない抗パーキンソン薬は、副作用の観点からも可能な限り少量で維持することが望ましい。抗パーキンソン薬の副作用として、以下に具体例を挙げる。

 

  • 不随意運動(意図せず身体が動く)
  • 幻覚、妄想
  • 食欲不振
  • ウェアリングオフ(症状の改善と増悪を一日の間に何度も繰り返す)

 

しかし、実際には病状進行に伴い薬剤が増量していくことが多い。薬剤増量に伴い副作用も増えていくことが、パーキンソン病治療において常に悩ましい点である。

 

パーキンソン病とグルタチオンの関係

 

パーキンソン病の原因は、中脳黒質におけるドパミン産生が減少することであるが、この発症機序に体内グルタチオンの産生低下や、酸化型グルタチオンの増加が関与している、という説がある。



Dopamine turnover and glutathione oxidation: implications for Parkinson disease


Parkinson's disease: A disorder due to nigral glutathione deficiency?




治療の目標を

  • 枯渇している物質(グルタチオンやドーパミン)を補う
  • 出来るだけ抗パーキンソン薬を少量に抑える

 

このように設定した場合、早期にグルタチオンの補充を開始するメリットはかなり大きいと考える。

 

しかし、保険上の適応や用法用量については現在以下の通り(ここから引用)。

 

効能・効果及び用法・用量

効能・効果
薬物中毒、アセトン血性嘔吐症(自家中毒、周期性嘔吐症)
慢性肝疾患における肝機能の改善
急性湿疹、慢性湿疹、皮膚炎、じんま疹、リール黒皮症、肝斑、炎症後の色素沈着
妊娠悪阻、晩期妊娠中毒
角膜損傷の治癒促進
放射線療法による白血球減少症、放射線宿酔、放射線による口腔粘膜の炎症
用法・用量
通常成人には、グルタチオンとして1回100〜200mgを溶解液にして溶解し1日1回筋肉内又は静脈内に注射する。
なお、年齢、症状により適宜増減する。

 

つまり、パーキンソン病やレビー小体型認知症で保険適応はとれていないため、高用量で使用するのであれば、患者さんによく説明した上で自由診療で行わざるを得ない

 

グルタチオンは発売されて何十年も経過している薬剤であり、今から製薬会社が巨費を投じて大規模臨床試験を行い、適応追加を取得する可能性は極めて低い。

 

全ての薬剤を、適応拡大分まで含めて保険収載していたらキリが無いし、医療財政的にもそれは困難なことである。しかし、介護の為に離職せざるを得ない人が今後増えることは、生産年齢人口低下が問題となっていることを考えると経済的なデメリットが大きく、またパーキンソニズム悪化のために歩行困難となり要介護度が上昇すると、その分の介護保険負担が増大する。これもまた医療経済上はデメリットと考えられるのではないか。

 

これらのデメリットと、グルタチオンを「パーキンソン関連疾患」に対して適応拡大することのメリット・デメリットを天秤に掛けて考えた場合、グルタチオンのメリットの方が勝ると思うのだが如何だろうか。

パーキンソン病の診かた,治療の進めかた
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