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鹿児島認知症ブログ

鹿児島でコウノメソッドや糖質制限を実践している脳神経外科医のブログ

目が見えない方にも幻視は起きうるのだろうか?

シャルル・ボネ症候群?

 
(Wikipediaより引用開始)
幻覚(げんかく、hallucination)とは、医学(とくに精神医学)用語の一つで、対象なき知覚、即ち実際には外界からの入力がない感覚を体験してしまう症状をさす。聴覚、嗅覚、味覚、体性感覚などの幻覚も含むが、幻視の意味で使用されることもある。実際に入力のあった感覚情報を誤って体験する症状は錯覚と呼ばれる。
(引用終了)
 
幻視とは、「本来見えるはずのないものが、とてもリアルに見えている状態」と考えて良いだろう。

 

今回は、ほぼ全盲であるにも関わらず幻視があるとのことで来院された方を紹介する。
 
シャルルボネ症候群①

 

シャルルボネ症候群②

78歳男性 シャルルボネ症候群


(記録より引用開始)
 

初診時


(既往歴)
 
網膜色素変性症でほぼ全盲。
 
(現病歴)
 
頭痛と嘔吐で近医にて頭部CT。特に何もなし。
その二日後に幻覚が見えるとのことで近医に入院。MRIで異常なしと言われて翌日退院。
 
幻視の内容だが、体格の良い男性であったり、紅葉の葉っぱだったり、紫や赤いカーテン、シート、5人の男の目玉、稲、杉など多彩。
 
近医脳外科ではリーゼとロキソニンを出された。内服後、2回失禁してしまった。
 
(診察所見)
 
HDS-R:25点。5物品は全盲で施行不可。それ以外は満点
遅延再生:6点
立方体模写:施行不可
時計描画:施行不可
保続:なし
取り繕い:なし
病識:あり
レビースコア:6
rigid:両側で軽度あり?
ピックスコア:1
頭部CT左右差:なし
介護保険:なし
胃切除:なし
 
(診断)
ATD:
DLB:?
FTLD:
MCI:
その他:
 
笑顔が多い。物忘れ症状は全くなし。しかし、リアルな幻視と両側上肢の伸展時の歯車様筋固縮、寝言などはDLBを考えたい。頭部CTでは海馬萎縮なし。萎縮の左右差なし。
前頭葉はややフロンタルレビーのような萎縮かな?
 
抑肝散を試してみましょう。失禁はリーゼの影響か?リーゼは中止。
効果があれば抑肝散陳皮半夏は継続。なければセレネースも検討。恐怖感を持つほどではないらしいが、診察中にも「今見えています」との発言あり。

 

初診から4週間後

 
症状はほぼ改善。まだ少し赤いのが見えたりするけど、もう大丈夫ですと笑顔。
シャルルボネ症候群だろうか?

かかりつけにバトンタッチ。
 
(引用終了)
 

見えていても自分から言わないことが多い。問診で聞き出すことが大事。

調べてみると、実は潜在的に結構な数の患者さんがいるかもしれないシャルルボネ症候群。というのは、
 
「自分に見えているのは本来見えるはずのないもの。こんなことを人に言ったら馬鹿にされるかもしれない」
 
という心理が働き、言わずに黙っている可能性があるからである。
 
後天的に視力が低下してしまった高齢の方に現れるらしいこの病気については、こちらのリンクに詳しい説明があります。ちなみに、こういう症例報告も見つけた。
 
 
抑肝散の追加投与により幻視が消失したシャルル・ボネ症候群の1症例
長濱道治,河野公範,宇谷悦子,川向哲也,安田英彰,岡崎四方,宮岡剛,西田朗,稲垣卓司,堀口淳(島根大学医学部精神医学講座)
【はじめに】シャルル・ボネ症侯群とは,主に視力障害のある高齢者が意識清明時に,人の顔や動物などの幻視を体験し,この幻視に対する批判力 を有するものをいう.今回我々はシャルル・ボネ症候群に抑肝散を追加投与し,幻視が消失した1症例を経験したので報告する.
【症例】73 歳,女性.白内障を有するが,手術歴はない.X‐2 年頃より,顔のようなものが,畑の小屋のトイレの窓ガラスに見えるようになった.やがて,顔のようなものが笠をかぶった男の人の 顔に変わってみえるようになり,さらに男の顔の背後にたくさんの笠をかぶった家来が見えるようになった.その男達の行列は家の外にでるとみえていたが,やがて中でもみられるようになった. X 年7 月精査目的で当科入院となった.入院後「ドア越しに男の人の顔が見える.ドアに丸顔で口がパクパク開くものが見える.歯が金色で,喋ると唇が赤になります.」など幻視を認め不眠と なった.SPECT,MRI では脳虚血性病変と後頭葉血流の低下が著しいため,入院12 日目よりイフェンプロジルの投与を開始するも症状改善を認めないため入院18 日目より抑肝散7.5 g/日の投 与を開始した.投与開始7 日目から徐々に幻視がみえなくなり,投与11 日目には完全に幻視は消失したため入院46 日目に退院となった.
【考察】本症例の幻視は,現時点で広く用いられているTeunisse らが提唱したシャルル・ボネ症候群の診断基準を満たしており,シャルル・ボネ症候群としての幻視と考えられた.シャルル・ボネ症候群に関連する中枢病変のひとつとして,以前より認知症との関連が指摘されており,特に病初期に幻視を生じやすいレビー小体型認知症の前駆症状として出現する可能性が推測される.シャルル・ボネ症候群に対する確立した治療法はないが,抗てんかん薬,非定型抗精神病薬,ドネペジ ルなどの有効性が報告されているが,レビー小体型認知症における幻視に対して抑肝散が著効した症例が報告されていることからも,抑肝散も選択肢の一つになり得ると考えられた.(第23回老年精神医学会抄録より引用)
 
 
 
全く物忘れ症状がない方であったので、レビースコアが6点であってもレビー小体型認知症と診断するのが躊躇われたのだが、同じ方向性で考えていて結局は問題はないのかもしれない。
 
案外、拗らせる前に初期に適切に見つけ出して介入することで、レビー小体型認知症の本格的発症を遅らせることが出来たりして。
 
そんなこと(ほぼ妄想だが)を考えさせてくれた方であった。
 
今回はこれで終了。

 

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